DreamWorks、Sony Pictures Animation、Illumination、Netflixなど大手スタジオで活躍するビジュアルデベロップメントアーティスト伊藤より子氏と栗田唯(SOIFUL代表)による対談企画第3回。前編では、パーティーでの衝撃的な出会い、ストーリーボードへの導き、桜祭りチャリティでのPixarとの偶然の出会い、そしてハリウッド業界のリアルなルールについて語ります。
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DreamWorks、Sony Pictures Animation、Illumination、Netflixなど大手スタジオで活躍するビジュアルデベロップメントアーティスト伊藤より子氏と栗田唯(SOIFUL代表)による対談企画第3回。前編では、パーティーでの衝撃的な出会い、ストーリーボードへの導き、桜祭りチャリティでのPixarとの偶然の出会い、そしてハリウッド業界のリアルなルールについて語ります。
栗田唯(以下、ユイ)より子さんとの出会いについて、お話ししてもいいですか?覚えていらっしゃいますか?
伊藤より子(以下、より子)もちろん。その時の栗ちゃんから見た私の印象、聞きたいな。
ユイ確か、サンフランシスコ在住の日本人が集まるパーティーで、知り合いの日本人ゲームクリエイターの方に紹介されて参加したんですけど、当時の僕は本当に何もわかってなくて。
ポートフォリオを握りしめて行って、ストーリーボードの「ス」の字も知らない状態だったんです。そこで「向こうに伊藤より子さんっていうすごい人がいるから、絶対見せたほうがいいよ」って言われて。もう、いきなりアポもなしに「ポートフォリオ見てください!」って言っちゃって。本当に失礼なやつですよね、今思えば。
より子めちゃくちゃびっくりしたよ。これは想定外だったから(注:このCG業界パーティーは通常プロの人ばかりで学生はいない)。
ユイいや本当、今思えばめちゃくちゃ恥ずかしいです。大変失礼しました、改めてごめんなさい。
より子普通はちょっとChit Chat(雑談)してからでしょ~。「今度見せてもいいですか」とか。今だったらiPhoneでサッと見せたりできるけど、昔は紙だったもんね。
ユイ僕もその時、急に行ったもんだから舞い上がってて。より子さんが優しくて、ちょっと見てくれたんですよ、数枚パラパラって。そしたら「本当はこういうのお金取るんだけどね」って言われて。「あ、本当だ!」って思って、俺は何やってるんだって。頭真っ白になって、ものすごく失礼なことしちゃったなって。
より子ちょっとチクっと言っちゃったね。共通の知り合いが「こういう子がいるから見てあげて」って前もって言ってくれてたらよかったんだけど。いきなりパーティー会場で知らない人が「見せてください!」って来て場違いだし、ちょっとムッとしちゃったのかも。
ユイ本当にそうです。スタート悪すぎましたよね。でも、はっきり言ってくださったのが本当に勉強になったんです。変に優しく言わずビシッと言ってくれたことで、こういうのは気をつけないとって思えたので。
ユイそれからもう15年ですよ。でもここから大事なのが、より子さんが僕のポートフォリオを見てはっきり言ってくれたんです。褒められるレベルじゃなかったので、「全然ダメだね」って。
より子そんなこと言った?ごめん…!
ユイでもそこが大事なんです。「あなた、ドローイング結構いいわね」って言ってくれて。それで「ストーリーボードやったらいいじゃない」って。そこで初めてストーリーボードって言葉を聞いたんですよ。今思えば奇跡の出会いです。
そこから15年かけて、今ストーリーボードを仕事にしてるわけで。あの時より子さんが「ストーリーボードっていうのはね」って説明してくれて。「日本にストーリーアーティストっていないから、あなたがなって広めたらいいじゃない」って本当に言ってくださって。より子さん、覚えてますか?
より子覚えてる、はっきりと。ペインティングはちょっと道のり長そうだなって思ったけど、ドローイングに勢いがあって、ジェスチャーがすごく綺麗だったの。ドローイング上手いねって言ったの覚えてる。
ユイここがより子さんを本当に信頼できるところで。はっきりものを言うんですよ。ダメなものはダメ、いいものは本当にいい。だからすごく信じられる。
僕は自分が信じられてなかったし、何ができるかわからなかった。その時に導いてくれて。「ペインティングは遠いな、でもドローイングならいけそう。じゃあより子さんが言うストーリーボードを頑張ってみよう」って始まったんです。そこから僕のストーリーボードの道が始まったから、本当に感謝してます。
より子言われてちゃんとやる人って珍しいかも、助言を信じて進んだ栗ちゃんはすごいなって。中には「いやー、そうやって言われたけどやっぱりやりたい」って人もいるのよね。それはそれでいいんだけど。でも栗ちゃんは素直にこの助言真面目にとってその後頑張ったからね。
ユイその時、この人を信じたいって思ったんです。めちゃくちゃビビってたし頭真っ白だったけど。この人を信じて、言われたこと全部やってみようって。その後もしがみつくように、より子さんにいろいろ勉強させてもらって。あれがあって今の僕がいますから。
より子ズバズバ言ってごめんね。
ユイいや、とんでもないです。じゃあ逆に、より子さんから見て僕の第一印象ってどうでした?さっき少し言ってくださいましたけど。
より子いや、だから棒立ちでやってきて、いきなり「すいません見てください!」って。「初めまして」とかもChit Chat(雑談)も全然なかったしね。誰が紹介してくれたかもあんまり覚えてない。
ユイ最悪ですよね、本当に。
より子いやまあそんな事ないよ、全然いいと思う。それぐらいガッツがあって絶対いいと思うの。チャンスって自分から掴みに行かないと来ないもんだし。ノーって言う人もいれば、今度にしてって人もいるし、そういうものだから(補足:できれば後からのフォローアップ、お礼のメッセージなど一言でも礼儀は忘れずに。良い印象を残そう)。
ユイその後とかも僕割と、なんかより子さーんって感じで、結構鬱陶しかったですか(笑)。
より子その後私の方から連絡したのよね。桜祭りのチャリティーに来ない?って。学生を集めようってやってて、ああそういえばあの子がいたなって思い出して。連絡先はその時もらってたから(補足:鬱陶しくはなかったよー、ただ一途で面白い奴だなあと)。
ユイ少し背景を説明しますね。2011年の震災直後の話なんですが、サンフランシスコのジャパンタウンで毎年開催される桜祭り、チェリーブロッサムフェスティバルがあって。日本が本当に大変な時期だったので、僕らアーティストで何かチャリティーができないかっていう動きがあって、それで何人かで集まって似顔絵を描いてチャリティーをやったんです。人の顔を描いてちょっとお金をもらって、それを全額東北に寄付しようっていう試みで。それが5年ぐらい続いたんですよね。
より子とにかく仲間を、学生も集めようってなったの。栗ちゃんはドローイング上手だし、このイベントで似顔絵やるって聞いたら、速攻にやるー!って言ってくれたよね?
ユイそうなんですよ、懐かしいですね本当に。運が良かったって言うのも変なんですけど、すごく良いきっかけになって。そこでやっと僕も、名誉挽回じゃないですけども。大失態を犯してますからね、より子さんに対して。
より子そんな大した失態じゃないから、ごめんね。気にしすぎ(笑)。
ユイ僕はもうだいぶやらかしたって思い込んでたんで、良いとこ見せて名誉挽回したくて。日本のためっていう思いもあったし、似顔絵を描くことも好きだったので、すぐに飛び込んだんです。
より子そうね、グループの名前が「One:Hitotsu」なんですけど、とにかく勢いがすごかったもんね。栗ちゃんも他の学生を人リクルートしてくれて、似顔絵部門をオーガナイズしてくれて。似顔絵は全て任せても大丈夫だったし、期待以上の10倍ぐらい頑張ってくれて。1日100枚ぐらい描いてたんじゃない?
ユイすごく楽しめましたし、本当に良い経験になって。ドローイングの勉強にもなったし。あ、ちょっと話がずれるかもしれないんですけど、この話覚えてます?朝イチでお子さん2人を描いたんですよ。後ろにお父さんがボーっと立ってて。その2人を描き終わって「ありがとうございました」ってやり取りした後、そのお父さんが僕にパッと名刺くださって。それがPixarって書いてあったんです。
より子あ、ちょっと覚えてる。
ユイその方が興味を持ってくれたみたいで。「訪問しに来なよ」って感じで。それで初めてPixarにお邪魔することになって。中に入って、そこで出会ったアートディレクターの方、ラルフさん。もう亡くなられましたけど。『ファインディング・ニモ』のアートディレクターで、お話しする機会があって。
そういう出会いがすごく繋がっていったというか。ドローイングをすることとか、似顔絵を描くこととか、より子さんと出会ったこととか。僕の中で世界がギューンと広がったイメージがあるんです。あの時飛び込んだことがすごく大事で、そこから始まったなって。
より子さんとの思い出が結構濃密で、僕としては本当に、より子さんなしでは今の僕はなかったって言えます。
より子よかった〜、ちゃんとレビューしておいて。忙しいからゴメンって言わなくてよかった(笑)。
ユイ毎年の桜祭りで似顔絵を描きながら、より子さんにちょくちょくポートフォリオを見てもらったり、学校のクラスにも参加させていただいたりしました。
より子見せてもらったよね。人物はいいんだけど、背景のパースがちょっと足りないとか。
ユイそこで本当にレイアウトとか教えてもらって。すごく印象に残ってるのが、キャラクターがあんまり立ってるように見えないってよく注意されたんです。地面に立ってる感じがしないから、「それ気をつけなよ」って。パースというか、実在感がないって。そういうのも結構叩き込まれて。今はすごく意識しながら絵を描いてます。
より子なかなかズバッと言ってくれる人いないからね。みんな褒めるから。
ユイ本当にそうですね。この人についていこうって強く思いました。
より子私、アカデミー(Academy of Art University)で教えてたから明確に伝えることには慣れてたんだと思う。でも同僚には言えないよ、怖くて。そんな失礼なこと。
ユイそうなんですね、そういうのってやっぱり気を使わないといけないんですか?
より子学校の生徒はまだいいけど、生徒でも言って少しムッとする子もいたりするからね。だいたい顔の表情でわかるから、サンドイッチで、褒めて、フィードバック、最後に又褒めて終わるみたいな感じにしてる。でも同僚には「こっちの方がいいんじゃない」とか、絶対に口が裂けても言わない方がいい。
ユイなるほど。でも例えば、プロジェクトをより良くするために、自分が引っ張っていかないといけないとか、間違った方向に行ってる時は引き戻さないといけないとか。
より子いや、それはアートディレクターがやることだから。もし私がアートディレクターやディレクターのポジションだったらやるけど、同僚はそういうことはしない。相手から聞かれない限りはね。もし気になることがあったら、上の人に「こういう状況なんだけど、こうしたらいいんじゃないかな」って感じで伝えた方がいいと思う。その方が角が立たない。
ユイ確かにそうですね。
より子私も失敗談あるもの。『マダガスカル』の頃、ボスが気に入ってくれて「このスタイルで行こう。より子がセットアップして」って感じになったの。ジュニアレベルのチームメイトだったらいいんだけど、同じレベルの同僚に「こっちの方がいいんじゃないかな」って言ったら、それが受け入れられなかったことがあって。
やっぱり気をつけなくちゃいけないなって。私が言うべきじゃない、アートディレクターじゃないから。その人との関係性にもよるし、性格にもよるけれどセンシティブな人だったら絶対嫌だろうし。
ユイ本当にそうですね。気にかけないといけないことたくさんありますね。より子さんは良かれと思ってやってるわけじゃないですか。
より子でもやっぱり、アメリカの映画業界ってトップダウン。だから友達だったら「こうがいいんじゃない」ぐらい言ってもいいのかもしれないけど、プロジェクト良くしようって熱くなりすぎない方が結果的に良いかもしれない。チームワークが大切だから。例えプロップシートのスタイルが違ってもそんなに大したことないぐらいに思っといた方が。
ユイこれって、30年以上のキャリアの中で徐々にわかってきたことですか?
より子いや最初の頃から。ヘッドは後半のキャリアで。それぞれの立場で学ぶことは大きかった。プロダクション(制作)のアーティストと、マネジメントのヘッドになるのは全く仕事内容は別だから。マネジメントでも制作でもアーティストは基本皆センシティブなので気をつけるのは必須。
ユイなるほど。マネジメントに入ると景色が変わるんですね。
※より子さん追記:アーティストへのフィードバックは常に論理的に説明致します。作品の講評はストーリーポイントから常にストーリーに沿って一番良い画面表現は何かというロジックがありきの講評です。