SOIFUL対談企画
第4回:堤大介×栗田唯「ストーリーテリングと夢の列車」(前編)

対談企画第4回前編

SOIFUL対談企画第4回目は、TONKO HOUSE共同設立者・堤大介氏と栗田唯(SOIFUL代表)による対談。前編では、15年前サンフランシスコでの運命的な出会いから、『ONI ~ 神々山のおなり』の制作裏話や、ストーリーボードの役割、そして日米の制作方法の違いについて語ります。

/ Interview

SOIFUL対談企画第4回目は、TONKO HOUSE共同設立者・堤大介氏と栗田唯(SOIFUL代表)による対談。前編では、15年前サンフランシスコでの運命的な出会いから、『ONI ~ 神々山のおなり』の制作裏話や、ストーリーボードの役割、そして日米の制作方法の違いについて語ります。

対談者プロフィール

堤大介
堤 大介 /Daisuke "Dice" Tsutsumi
TONKO HOUSE 共同設立者・アニメーション監督
Pixar Animation Studiosアートディレクターとして『トイ・ストーリー3』『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がけた後、2014年にTONKO HOUSEをロバート・コンドウと共同設立。短編映画『ダム・キーパー』が2015年米アカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされる。Netflixシリーズ『ONI ~ 神々山のおなり』では、アニー賞で2部門受賞、エミー賞で3部門を受賞。
栗田唯
栗田 唯 /Yui Kurita
SOIFUL 代表
Academy of Art University卒業後、Blizzard Entertainment、マーザ・アニメーションプラネット、TONKO HOUSEなどでストーリーアーティストとして活躍。ストーリー開発スタジオSOIFULを設立。

15年前、スケッチトラベル展での出会い

ワインと「大阪」のサイン

栗田唯(以下、ユイ)SOIFUL対談企画第4回目、今回はトンコハウス共同設立者であり、Netflix『ONI ~ 神々山のおなり』の監督を務められたダイスさんをお迎えしました。本日はよろしくお願いします!

堤大介(以下、ダイス)よろしくお願いします。

ユイまずは僕とダイスさんの出会いからお話しさせてください。初めてお会いしたとき、面白い出来事があって。サンフランシスコで15年くらい前ですかね、スケッチトラベルをやってた時期だと思うんですけど。

ダイス15、16年前だね。スケッチトラベルの展覧会をカートゥーンミュージアムでやった時。

ユイそうです!当時僕はサンフランシスコに住んでいて、会場も歩いて行ける距離だったので、「あの堤大介に会える!」とテンション高めで参加しました。そしたらイベントがすごく豪華で、フリードリンクにワインまであって。調子に乗って5、6杯飲んでしまい、完全に陽気になっちゃったんです。

そのまま「サインください!」ってダイスさんの列に並んだんですが、もうかなり酔っていたので、今の倍くらいのテンションで喋り倒してしまって(笑)。ダイスさんもちょっと面食らっていた気がします。それでスケッチブックを渡したら、少年の絵を描いてくださって。服の真ん中に「大阪」って書かれてたんですよ(笑)。多分ダイスさんの中で僕は、「大阪出身のめちゃくちゃ喋るやつ」として記憶されたんだと思います。

スケッチトラベル展のポスター

スケッチトラベル展のポスター(1/4)

スケッチトラベル展オープニングの様子

スケッチトラベル展会場(カートゥーンミュージアム、サンフランシスコ)(2/4)

スケッチトラベル展でのサイン会

アーティストによるサイン会(3/4)

ダイスさんに描いていただいた一枚

ダイスさんに描いていただいた一枚(4/4)

ダイスははは(笑)。

ユイ僕はこれでダイスさんの心をつかんだなって感じがあって、それは冗談ですけど(笑)。すごく楽しい人だなって思いました。ただ僕としては、ちょっとお酒の失敗で「なんてことしてしまったんだ」っていう思いもあって。ただおしゃべりして「楽しかった~」って思っていたら、サインに大阪って書かれてて。僕はズコーンって、「大阪出身ちゃいますよー!」って言いながらさよならして。それが最初の出会いですね。

ダイスヒロ(長砂賀洋)とトシ(中村俊博)もその時いたんだよね。トンコハウスをフォローしてくれてる人たちは長砂賀洋って知ってる人もいると思うんだけど、今は独立してすごく活躍してるアーティストで。中村俊博もトンコハウスで長年アニメーターとして、『ONI』ではアニメーションスーパーバイザーをやってくれて。この2人とも、そこで初めて会ってるんだよね。

ユイあの日にみんな揃ってたんですね、すごい。

ダイスユイと会ったのもその日だし、ヒロともトシとも。トンコハウスの歴史に欠かせないこの3人と、スケッチトラベルの展覧会のオープニングで初めて会ってるんだよね。もちろんすごくたくさんの人と会ったから完璧に覚えてるかって言ったら覚えてないんだけど、やっぱりユイの“ノリ”みたいなものはすごく今でも覚えてますよ。

ユイ覚えてていただいて嬉しいです。恥ずかしい思い出ですが。

海外で生きる仲間として

ダイスユイはその時まだ学生でさ、そこからいろいろあって頼子さん(伊藤頼子)とかとの出会いで揉まれてストーリーボードの道に進んでいったと思うんだけど、僕と出会ったのは、多分その前ぐらいなんじゃないかと思うんだよね。

本当に長い付き合いになるよね、15年、16年前の話だし。僕の中では常にユイとの関係を大事にしていて。海外でやることの難しさを知ってる者同士っていうか。それは経験しないと分からないよね。

差別みたいなものも経験してきたと思うし、言葉だけじゃないハンデを乗り越えないと第一線で活躍するのは難しい、どんなに才能があってもね。でも才能があって努力もして、その時の運もあると思うけど壁を乗り越えてきてる。ユイもそうだと思うんですよ。そこに対する信頼があったんだよね。

ユイはい。そう言っていただけて有難いです。

ダイスユイと実際に仕事をするようになったのは、『ダム・キーパー』のグラフィックノベルをちょっとやってもらったのが最初かな。トンコハウス始めたばかりの時に手伝ってもらってるんだけど、まだその時はユイがちょうど卒業したてぐらいだったと思うんだよね。

結局、僕がこの人と一緒に何かやりたいなって思う時って、技術的なものとかアニメーションのテクニックに優れているっていうところも大事なんだけど、正直そこだけでは心は動かないのね。やっぱりその人がここまで積み重ねてきた経験というか、その旅の濃さというか。ユイと話していると面白い話がいっぱいあるじゃないですか。

海外で生活してきた中で、僕も嘘みたいな馬鹿らしい話がいっぱいあるわけですよ。今じゃ笑い話だけどめちゃめちゃシャレにならないぐらい大変だった話とかね。留学とかしてると本当にいろいろあるじゃないですか。どうしても外国人だから、そういう目に遭いやすいというか。だから日本で暮らしている外国人の人に対しても、僕はどうしても親身になってしまうのは、この『ONI』に出てくるカルビン(注:異国の地からやってきた、日本の妖怪が大好きな少年)じゃないけど、よそ者として生きている人たちの苦しみ、そしてそこから生まれる普通じゃ経験しないような経験をしてきた人たちだからでもあって。そういう経験をしてきた人たちって面白いんだよね。

ユイと仕事したいっていうのはすごく強い思いがあって、『ONI』で一緒にやりたいなと思ったのはユイの実力もさることながら、そこ(海外生活の経験があったこと)が結構大きかったですね。

『ダム・キーパー』のイベントにて。左からロバートさん、ユイ、ダイスさん。サイン付きポスターのプライズがうっかり当たってしまう。

『ダム・キーパー』のイベントにて。左からロバートさん、ユイ、ダイスさん。サイン付きポスターのプライズがうっかり当たってしまう。

『ONI』制作時の裏話とストーリーアーティストの役割

8人のストーリーチームで154分の大作を

ダイス正直、ストーリーボードですごく実力がある人っていうのはいっぱい居るわけですよ。うちもおかげさまで、ここで仕事したいって人が世界中からたくさんいるので。じゃあなんで『ONI』みたいな作品で8人しかいないストーリーチームの中にユイが入ったかっていうと、やっぱりそういうところなんでね。

別にユイが面白いから一緒にいたら笑えるとか、そういう話でもなくて、作品に人間性が出てくるから。『ONI』という作品には、栗田唯という人間性が確かに宿っていると思うんですよ。

ユイそれもだいぶチャレンジングですよね、僕がどんな仕事をするかもダイスさんからしたらわからないところがあるじゃないですか。

ダイスわからないね。そこはリスクじゃないですか。この人だと思ってやったけど、うまくいかないケースももちろんあると思う。

それはもう人生の巡り合わせだから、人と人が会ってこの人と合うと思ったけど、いざやってみたらちょっとギクシャクするとかっていうのは当たり前にあるよね。100%自分が感じたものが合ってるかって言ったらそうじゃないと思うんだけど、それは恋人関係とかだったらもっと分かりやすいよね。100%最初に会った人が一生共にするってこともないわけじゃん。だから雇用関係も含めて一緒に仕事するパートナーっていう意味では100%ってことは絶対ないと思うんだけど。

でも僕の中では常にそういうのが結構大事になってくる、その人の今まで生きてきたところにちょっと目が行ってしまうというか。

ユイ『ONI』が終わってもう3年くらい経ちますかね。

ダイスユイがストーリーやってたのがもう4年くらい前だね。

ユイせっかくなので聞いてしまいますけど、『ONI』での僕の仕事ぶりはどうでしたか(笑)?

ダイス『ONI』は合計154分、劇場映画の1.5倍くらいの長さがある作品じゃないですか。それだけの大作をストーリーアーティスト8人でやったんだよね、ひかりちゃん(鳥海ひかり)とかエリック(Erick Oh)も入れて。エピソディックディレクターって肩書きだったけど、彼らもストーリーボードをやったからね。

ピクサーの劇場映画だと20人以上いるから、8人っていうのは少数精鋭なチームなわけ。そうすると一人一人が頑張らなきゃいけない割合が半端なく大きいわけですよ。

だからユイが持ってきたものっていうのは確実に作品に出てるよね。多分ユイも見てて分かると思うけど、『ONI』のシークエンスで、「これユイだよね」っていうのはいっぱいあるじゃない。オープニングの歌も含めて完全にユイにやってもらったところがそのまま映像になった。脚本になかったものだってあるわけじゃん、「ちょっと面白おかしくやって」とか「このアクションはユイなりに頑張ってみて」っていうのもいっぱいあったし、もちろん脚本通りにアクティングを付けてもらうこともあったんだけど。そういう意味ではすごく大きな貢献をしてくれたと思います。

ユイありがとうございます。

ダイスあとはやっぱり、あの時は全部リモートだったから可能になった部分があるでしょ。変な話、コロナ禍じゃなかったらできなかったかもしれない。

ユイ僕にとっては結果的に追い風になりましたね。

ダイスコロナ禍で「大変だ、世界どうなっちゃうんだろう、アニメーションなんか作ってる場合じゃないんじゃないか」っていう時に、逆にこの体制が組めたんだよね。逆境がうまく反転して、そうじゃなかったらできなかったこともいっぱいあった。ユイと一緒に仕事するっていうのも含めて、不幸中の幸いでね。

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(1/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(2/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(3/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(4/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(5/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(6/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(7/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(8/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(9/10)

『ONI』キービジュアル

『ONI』キービジュアル(10/10)

振り落とされないように必死だった

ユイ僕としては、ずっともがきながらやってきた感覚があります。少し話は戻るんですけど、ダイスさんが『ONI』に誘ってくれた時のことは今でも覚えていて。東京で二人でご飯に行きましたよね。あの時は「なんで僕に声をかけてくれたんだろう?」って本当に不思議でした。

でも今振り返ると、ダイスさんはいろんなことを考えた上で呼んでくれていて、すごくありがたい機会だったなと思います。だからこそ、このプロジェクトでは絶対に結果を出したい気持ちが強くありました。人柄だけでは通用しないので、とにかく絵を描いて、アクティングやストーリーテリングに必死で向き合っていました。

正直、序盤はかなり苦しかったです。ダイスさんは優しい方なんですけど、目指しているレベルが本当に高いので、振り落とされないよう必死でした。でも後半になって、ようやく何か掴めた感覚があって。最後はちゃんと手応えを感じながら終えることができました。本当にありがたい経験でしたし、改めて感謝しています。

ダイスとんでもないです。それはみんな一緒だよね。僕も含めてみんなすごく成長したと思うし、いいチームだったじゃない。ユイが持ってないものを持ってるアーティストもいれば、逆にユイにしかできないところでみんなが頼りにしてた部分もいっぱいあったし、そこがうまくハマったかなって。

あとやっぱり、アメリカで生活してたとはいえ、英語の脚本で英語でやるっていうのは、まあまあなしんどさが絶対あったと思うんだよね。僕はやっぱり厳しい方だと思うんですよ、目指してるものに対して妥協は絶対しないので。でも、それは僕自身も含めてで、できてないところがあるのは分かりながらも、「みんなでやれるんだ、やろうよ」っていう気持ちがすごく強かった。

あとやっぱり、常にトンコハウスが目指してるところって、「まだ一生懸命学んでる、まだ全部知らない、自分が成長しないとやばい」っていう時が一番いい作品が生まれるっていうことなんだよね。そういう意味ではひかりちゃんも含めてそうじゃん。ひかりちゃんもスーパーバイズって初めてだったし、あんなすごい仕事して「本当すげえな」って周りも思ってたと思うし、僕もそう思ってたけど、プレッシャーの中で頑張ったんだと思うのね。やっぱり、そういう時が一番充実するわけですよ。

ユイ確かに。

ダイスSOIFULも絶対そうだよね。今が一番楽しいところで一番面白い時期なんだよね多分。

ユイダイスさん、それこそよく言いますよね。背伸びしてるぐらいがちょうどいいというか、無理してでも背伸びしようとすることが大事だって。

栗田唯が担当した『ONI』のストーリーボードの一部

栗田唯が担当した『ONI』のストーリーボードの一部

一緒にスタイルを探していく時間

ユイ今、僕は『ONI』を経てSOIFULができて、いろんな仕事をしてる中で、なんとなく『ONI』のことを思い出すんですよ。「あの頃のスピード感ってどうだったんだろう」って。ダイスさんとしてはどう見えてたのか聞きたいんですけど、あのクオリティとスピードっていうのがスタンダードと思っていいのか、それともゆっくりだったのか、速かったのか。

ダイススピードね。やっぱり絵のスタイルが固まるまで最初は大変だったよね、みんな。

ユイオリジナル作品だから特にそうですよね、ゼロからだし。

ダイススタイル的にもキャラクター的にも、まだ掴もうとしてる時じゃない。もちろん僕も100%見えてるわけじゃないから、そこをみんなに助けてもらう。監督が全部持っててそれをただ絵にしてくださいじゃないじゃん、僕らの作り方って絶対そうじゃない方がいいと思うし。でもある程度明確なビジョンがないと絶対迷走しちゃうので、その辺はみんなすごく苦労してやってたと思うね。

よく覚えてるのは、ユイとかが「ダイスさんの中でこれどういうふうに見えてるんですか」みたいに聞いてきたこと。上がってきたものに対して「これはいいけど、ここはちょっと」みたいに言っていくと、どこを見てるのか最初は分かんないじゃん。だんだん成功例が出てくると「ここを目指せばいいんだな」っていうのができてくるけど、最初はどうしてもそうなっちゃう。

どんなにすごい人たちだって最初は探してるわけじゃん。「『ONI』ってどんなストーリーテリングのスタイルなんだろう」とか、「なりどん(注:おなりのお父さんで、言葉を持たず、遊んでばかりいるヘンテコリンな神様)ってどんなキャラなんだろう、馬鹿なんですか、それとも単純に鈍感なんですか」とか、そういう話、すごいしたじゃん。

ユイしましたね。

ダイス今だから言うけど、僕が一番苦しかったのはやっぱりあの辺なんだよね。自分の中でなんとなくモヤモヤ分かってるんだけど、ちゃんと説明できてないから、結局ストーリーアーティストとみんなで最終形のなりどんに近いものが少しずつ出てくる過程を待つしかなかった。最初から答えがあったわけじゃないんだよね、今考えると。でも結果が出てから振り返ると、それが正しいやり方なんだと思う。

僕もあの規模の作品の監督は初めてだったし、しかもセリフがある作品って初めてだったからね。おなり(注:作品の主人公)がいて、なりどんがいて、なりどんは「(注:なりどんのセリフで)なー!」しか喋らないってどういうことですかみたいな、そういう話超あったじゃん。

『ONI』の発表イベントでダイスさんとユイ。サイン付きイラストを購入。

『ONI』の発表イベントでダイスさんとユイ。サイン付きイラストを購入。

ストーリーボードの本質と脚本との関係

脚本だけではアニメーションは作れない

ユイだからストーリーアーティストの仕事とストーリーボードの役割って、そういうプロセスに貢献してるってことですよね。とにかく広げていって、こういうパターンがある、こういうパターンもあるっていうのを提案して、監督が選べる状態にするっていうやり方でしたよね。

ダイスいやほんと、脚本だけでアニメーションのお話を考えるってほぼ不可能に等しいと思う。実写映画でも今やストーリーボードが出てきてるし、アニメーションはゼロから作り上げていくものだから、脚本とストーリーボード両方のプロセスが欠かせない。

もちろん脚本はめちゃめちゃ大事、自分も書くし、絶対大事だと思ってる。でもそれだけじゃないんだよね。ストーリーアーティストも同じくらい一緒にストーリーを作っていく人たちだと思う。そこを見落としてしまうと、脚本があればできると思い込んでうまくいかないケースもあって、ハリウッドでもそういうのを見てきたので。

どっちも大切で、脚本ができてないのにいきなりストーリーボードやるのも危険だし、脚本ができたからあとは絵にするだけでしょっていうのも違う。脚本では表せないところっていっぱいある。そこがストーリーアーティストの役割で、ストーリーアーティストってイラストレーターじゃないじゃん。ストーリーのアーティスト、つまりストーリーを作る人なんだよね。そこは本当に大事。

ユイそれで言うと、脚本はうまくいってるつもりでそのままグリーンライトが出てプロダクションに進みましょうってなった時に、うまくいかなかった理由って例えばどういったことがあるんですかね。キャラクターの感情表現が上手く描けてない、とか。

ダイスもちろんあらゆるパターンがあるけど、映像にしたら面白くなかったとか、映像にしたらありきたりになっちゃったとかね。脚本がダメで次に進むのもダメだけど、要はビジュアルストーリーテリングも含めてストーリーなんだっていう考え方で臨まないと、アニメーションはすごく難しい。

特にアメリカみたいに大きい予算が動いてたくさんの人が関わる場合、そこがブレてると作ってみたら「あれ?」ってなるケースが多い。脚本は面白いのになんでっていうのを結構見てきたので。

ストーリーボードはストーリーを作る過程

ユイどうしてそういう現象が起こるんですかね。絵にしたら突然違うふうに感じるっていうのが不思議で。

ダイス脚本を書いて、さあストーリーボードをやろうっていう過程で、脚本通りにいかない時って絶対あるわけだよね。ピクサーの制作方法をみても、ストーリーボードが脚本のプロセスの一つなんだよね。だからストーリーボードの過程でものすごくストーリーが変わるわけですよ。

『ONI』のときもそうだったじゃん。ストーリーボードやってる時も脚本をずっと書き続けてたよね。みんなでスクリーニングやった時に「これほんとダメだね、変えなきゃね」ってなって、セリフだけじゃなくて構成まで変えていって。

このやり方を「正しい」って言ったら変な言い方だけど、プロデューサーにとってはすごく不安なやり方だと思うよ。計画が立てづらいから。でも、「それこそがプランなんだ」っていう構え方で臨むことで、いいものが生まれていくんだと思うんですよ。

最終的に『ONI』はそれがあったからコストが高くなったということはなくて。予算内に収めてるからね。ピクサーはそこにも惜しみなくお金をかけるから、予算が回収できないレベルになっちゃうこともあって、それはそれで問題にはなってしまうのでバランスが大切だと思うんだよね。

予算がかかりすぎちゃうとリスクが負えなくなっちゃう。そこのバランスって難しいよね。安ければ安いで作ってる人が疲弊しちゃうし、予算をかけすぎると回収しなきゃいけない額が高くなるので、思い切ったものを作れなくなって平均的なものになっちゃうっていう悪循環にも繋がる。すごく難しいと思うんですよ。

ユイそういう意味で聞きたいんですけど、ピクサーとかディズニーって、ゴールはとにかくいいストーリーを作ることで、そのゴールに辿り着けるまで上限なくスクリーニングをし続けているのか、もしくはスクリーニングの上限回数を決めてやってるのか、どっちなんですか。

ダイス時と場合によると思うけど、基本はスクリーニングの回数はなんとなく決まってる。その回数やってもダメだったら、もう“ストーリーが機能してない”ってことでしょうって結論に至ることはあると思う。とはいえ今までの歴史上、公開日を延期してエクストラでスクリーニングをやりましょうっていうのはもちろんあった。

逆にスクリーニングをやりすぎて、いろんな意見がどんどん入ってきちゃって、何がやりたいのか分からなくなっちゃったケースも今まで何度かあったんだよね。どこかでコミットメントって大切じゃないですか、すごくそこは難しいところだと思う。

日本とアメリカの制作方法の違い

ダイスだから日本みたいに監督がコンテも全部やるくらいのスタイルのいいところは、やっぱりブレがないよね。監督がもうこれだ、これをやるんだってなるから。

例えば新海誠監督、僕大ファンなんだけど、『君の名は。』があって『天気の子』があって『すずめの戸締まり』があって、僕は『天気の子』より『君の名は。』が好きだったとか、そういう人はもちろんいると思う。でも誰が何と言おうと新海誠作品ってやっぱちゃんとできてるっていうのが、僕はすごいなと思う。

新海さんもそうだし日本の作り方って、それで生じる問題もあるんだと思うけど、新海さんとか宮崎監督みたいな本当にすごい力のある監督であれば、それは羨ましいなって思う、ブレないので。アメリカの作り方の弱いところは、あまりにもいろんな意見が入りすぎて一本の線が通りづらいところもあるので。

ユイそれは本当にそうですね。どっちがいい悪いじゃなくて、それぞれに特徴があるっていうことですよね。

ダイスだから結局、ブラッド・バードみたいなアメリカでは天才とされてる名監督がいるじゃないですか。じゃあブラッド・バードの作品が全部うまくいってるかっていうと、もちろんそうじゃない。その監督だから全部正しいとかではなくて。

ただやっぱりブラッド・バードが作った中で、アニメーション業界の人が特に「ブラッド・バードやっぱすげー」って言うのは、『アイアン・ジャイアント』と『Mr.インクレディブル』と『レミーのおいしいレストラン』じゃないですか。この3つはおそらくブラッド・バードが今まで作った中で一番制約があったプロダクションだったはずなんだよね。

ユイ制約があったから、逆にいい作品になったってことですか?気になりますね、その話。

CREDITS
  • Yui Kurita / Interview
  • Hiroyuki Tsuiki / Editing