SOIFUL対談企画第4回目は、TONKO HOUSE共同設立者・堤大介氏と栗田唯(SOIFUL代表)による対談。後編では、トンコハウスの経営哲学「夢の列車」、経営者としての覚悟、幸せの瞬間とものづくり、そしてこれからのトンコハウスとSOIFULの未来について語ります。
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SOIFUL対談企画第4回目は、TONKO HOUSE共同設立者・堤大介氏と栗田唯(SOIFUL代表)による対談。後編では、トンコハウスの経営哲学「夢の列車」、経営者としての覚悟、幸せの瞬間とものづくり、そしてこれからのトンコハウスとSOIFULの未来について語ります。
栗田唯(以下、ユイ)トンコハウスは2026年の7月で12周年を迎えますよね。一方でSOIFULはまだ2〜3年目で、僕らとしてはトンコハウスから学びたいことが本当にたくさんあります。もちろん全く同じではないと思うんですけど、「ストーリー開発を軸に映画を作っていく」という部分では、近いところも結構あるなと感じていて。
だからこそ、経営のことでも、監督としての考え方でも何でもいいので、今の僕らに対して何かアドバイスというか、「こういうことは大事だよ」みたいなお話があれば、ぜひ聞かせてもらえたら嬉しいです!
堤大介(以下、ダイス)これはユイと会った時にも話したんだけど、会社よりも大事なのは個人それぞれなので、「会社のために」みたいなふうには絶対にならないようにしてほしいなっていうのがあって。会社は個人の夢を実現するためのツールでしかないと思ってるんですよ。
いつの間にか「会社のために身を捧げる」みたいなのが変な美徳になったりする時もあるじゃない。最近は少なくなってきたのかもしれないけどさ。そういう考え方って、突き詰めてしまうと結局は個人の幸せから離れていっちゃうんですよ。そうじゃないと思うんですよね。
ダイス僕なんかは、こっち(アメリカ)に来たばかりの時は「日本人ってことがハンデだ」としか思わなかったの。でも今は日本人だからこそ持てる武器を活かせているというか、それが自分の強みになっているんだなって感じてる。そういう感覚に自分は切り替わったね。もちろんそれは、今日本という国が素晴らしくて世界中で愛されてるから、っていう面もあるのかもしれないけど、多分そういうことではなくて。
やっぱり人それぞれの人生とか命っていうのが一番大事なわけで、みんな自分の責任で生きてるじゃない、誰のためでもなく、自分のために。幸せになったら自分の責任、自分のおかげですよ。周りの人にいろんなサポートをしてもらったかもしれないけど、幸せになるかならないかっていうのは自分でちゃんと決断してるんだよね。どんなに周りがサポートしても、不幸せな人は不幸せのままなので。やっぱり自分の幸せに責任を持つってことだと思う。
だから「会社のために」とか「会社のおかげで」っていうふうには、絶対に思っちゃいけないと思うんですよ。会社は本当に踏み台でしかないというか、会社があることによって、自分一人じゃできないことをやれるっていうことだと思うのね。それはすごい素敵な事だと思う。
まさにトンコハウスもそう。トンコハウスだからできること、トンコハウスって僕らの夢の列車みたいなものなんですよ。それに乗り込んで、僕もロバートも、そしてたくさんのトンコハウスの仲間も、ユイも含めて乗ってきて、今までのトンコハウス列車があったわけでしょ。トンコハウス自体は夢じゃないわけ。それは履き違えちゃいけないと思う。夢に向かっている乗り物なんですよ、会社って。
ユイしびれますね、その例え。会社が乗り物っていう発想、すごく腑に落ちます。SOIFULもそういうふうに考えていきたいです。
ユイただ、リアリティというか、じゃあその列車が止まらないようにしなくちゃいけないっていうのも一つあったりするじゃないですか。乗ってる人の幸せを考えるのは僕も同じなんですけど、列車が止まっちゃうと、それこそお給料が払えなかったりみたいな。そういう局面に直面した時って、どう乗り越えてこられたんですか。大変な時期も、もちろんあったと思うんですけど。
ダイスそれは未だにありますよ。本当に大変だった時期はもちろん今までに何回もあったけど、その時にも大事にしてたのが、ロバートたちとよく話してたんだけど、とにかく「いつ手放してもいいんだよ」っていう気持ちでやろうね、っていうこと。やりたいからやる。「やらなきゃいけないからやる」っていうのはやめようよ、と。
本当はやりたくないのに、みんなのお給料を払わなきゃいけないから仕事を取っている、そんなトンコハウスでは働きたくないっていうメンバーが、うちにはいると思うんですよ。一歩落ち着いて、一歩下がって考えた時に、トンコハウスに来た理由はそれじゃないっていう人たちだと思うし、そうじゃない人だと多分うちには合わないと思うんですよね。
もちろん、トンコハウスがあるからこそできることがいっぱいあるから、なんとか持ちこたえようと言って仕事を取ったことも今までにはあるよ。ただ、優先順位をごちゃまぜにするのはやめようよっていうのは、すごく言ってたね。
ダイスとはいえ、現実的な話で言うと、人にやめてもらわなきゃいけなかったこともあるわけ、今までに。経営してリストラとかがあると、会社の経営者って恨まれちゃったりすると思うんだけど、でもやっぱり、それが多分、会社経営で一番辛いことだと思うんですよ。
でも大事なのは、やっぱり「なぜ」なんだよね。なぜトンコハウスをやってるか、なぜトンコハウスでこの人に働いてほしいと思って「ぜひうちでやってください」って言ったか。そこも含めて、「なぜ」っていうのが明確になっていることがやっぱ大事だと思うんだよね。
それが合わなくなった時に、お互いにとって別の道を選ばざるを得ない、っていうこともやっぱり今までにはあったし。本人にとってはすごく辛かったと思う、納得しきれないところもあったかもしれない。でもそこにブレはなかったと思うんですよね。「自分たちが目指していた『なぜ』と一切ズレがないのにいきなり追い出された」みたいなことは、絶対僕らはしないので。そういうところは、しっかりやってきたつもりではある。
それはもちろん会社それぞれだし、ユイのようにリーダーシップの立場にある人がどう考えるかだから、僕が何か言えることじゃないんだけど。僕自身で言えば、常に、自分の人生には責任を持ってほしいって思ってる。だからメンバーの誰かがトンコハウスをやめたいって言ってきた時は、絶対引き留めない。もちろん「うちでやったらこんな仕事あるよ」「こんな仕事、考えてたんだよ」「今はないけど数ヶ月後にこれをやろうと思ってる」、そういうのは伝えるかもしれないけど、何か違うことに挑戦したいっていう人は、絶対背中を押してあげるっていうのは、僕の中では大切にしているところ。
トンコハウスで「囲う」みたいなことを、本当にしたくなくて。「トンコハウスで働きたい」っていうのが、絶対その人にとってベストな選択であること。そこが、僕の中では結構大切な条件だよね。
ユイそれで言うと、トンコハウスの「なぜ」みたいなのも聞けたりしますか?ダイスさんは今なぜトンコハウスを会社としてやっているんですか?
ダイス僕らのミッションステートメントみたいなのがあるんだけど、それは「Entertainment and Awareness」。日本語で言うと、エンタメの要素と、自分と社会との繋がりへの気づきみたいなもの。そのバランスを保ったストーリーテリングで、たくさんの人の好奇心を刺激するっていうのが、僕らのミッションなのね。
「好奇心を刺激する」っていうところにこだわってるのは、自分たちも常に好奇心を持っていたいし、見てる人たちが好奇心をそそられるようなものを作りたいから。普段なら素通りしてしまうようなところに美しさを見つけたりとかさ。やっぱり絵描きをやってるとすごく大事だし、ストーリーアーティストもそうでしょ。
普段カフェに行ってスケッチをするとかも、ただあるものを見てスケッチするんじゃなくてさ、そこにいる人たちのこともいろいろ想像したりとか、好奇心があるわけでしょ。「この人面白いな、この表情、姿勢、どういう生活してる人だろう」とか、「どういう人生を背負って、こんな暗い顔してるのかな」とか、あるじゃん。それが正しいか正しくないかは別として。
その好奇心を自分も持ちたいし、自分たちの作品を通じても、例えば『ONI』を観て「よそ者ってどういうことなんだろう」とか。日本の文化に興味を持ってくれる人もいれば、世界のどこにでもいる、外から来た人たちの気持ちに目を向けてくれたら嬉しいじゃない、やっぱり。
もちろん、うまくいかないケースも自分たちの実力次第ではあるんだけど、そこを常に目指したいよねって、僕らはずっと考えていて。「なぜトンコハウスか」っていったら、それを作ることがしやすい場所だから。
ダイスただ、「じゃあトンコハウスでやるより、個人でやった方が絶対いい」っていう状況だってあるよね。自分の作りたいものが作れるようになっていたら、いつでもやめていいし、僕もロバートも、トンコハウスじゃない方がいいっていう時があるかもしれない。それもありだよねっていう話は、すごくしてる。
トンコハウスは常に「便利な列車」で、便利な時に乗ればいい。それがすごく大事だから、僕らはそのポンコツになった列車でも、なんとか修理をして、穴を塞ぎながら、いまだに走らせてるわけじゃない。
だけど、「トンコハウスをもっと立派な列車にしなきゃ」みたいに、トンコハウス自体が大事になってしまったらダメなわけですね。だからそこの「なぜ」の部分は、まずは僕とロバートが絶対に外しちゃいけないと思うのね。
そして一緒に働いてる人たちがそれを共有してくれる。もちろん、彼らからしてみれば最初からいるわけじゃないから、僕たちよりはちょっと薄れてしまうかもしれないけど、それでも少しでもそういう意識でやってくれていれば、トンコハウスがその人たちの人生にとってプラスになってくれると思うのね。
だから、お給料だけで考えてほしくないし、それだけだったら他に行ったほうがいいっていうこともあると思う。うちは安定感を得られる会社じゃないので。だけどやっぱり、その人たちがトンコハウスを踏み台にして、それぞれの夢に向かっていってくれるのであれば、一番うれしいですね。
ユイダイスさんは、12年間トンコハウスを続けてこられていて、きっとスタジオ自体が自分の分身のような存在になっている部分もあると思うんです。その中で、純粋に「幸せだな」と感じる瞬間や、「この仕事をやっていてよかった」と思う瞬間って、どんな時ですか?
トンコハウスのことでも、もっと個人的なことでも構わないのですが、ダイスさんにとっての“喜び”ってどこにあるのか、ぜひ聞いてみたいです!
ダイスものすごく個人的なことで言ってしまえば、家族の幸せみたいなものが、自分の中では一番大切なんですよ。多分それは、ほとんどの人がそうだと思うんだけど、そこは外せないというか、絶対譲れない部分。
自分の息子が何かを達成したとか、何か嬉しいことがあったとか、もう単純に家族皆で笑ってるっていう時が、多分一番幸せじゃないかなって思うんでね。それは基本的なものとして、すごく自分の中にはあるんですよね。
ユイやっぱり家族がまず一番ですよね!仕事の方では、どんな瞬間に幸せを感じますか?
ダイスやっぱり『ONI』の時も『ダム・キーパー』の時も、この間作った『BOTTLE GEORGE』とかもそうだけど、作品を作った時にすごく幸せを感じる。ものづくりをしている人たちはみんなそうだと思うんだけど、作品制作のなかで感じる幸せな瞬間って、やっぱり「共感した時」だと思うんです。自分が「これを作りました、こう感じました」っていうのを、共感できた時。
アニメーションの制作で言ったら、作っている期間は長いでしょ。その過程の瞬間瞬間に、「なんか結構すごいものを作ってるじゃん」とか、「これいいの出来てるじゃん」みたいなことがあるじゃない。その瞬間、瞬間をみんなと分かち合って“共感し合えている”、“仲間と一緒に作っている”、そんな時は、かけがえのない幸せを感じる瞬間でもあるよね。
正直、これがなかったらアニメーションってできないなと思う。これだけの長い期間をかけてやって、出した時のお客さんの反応だけに自分の幸せ度を委ねてしまうと、もうかなりしんどい。だからやっぱり、作っている過程って、完成した時と同じくらい大事なんですよね。
もう一つはやっぱり、完成した作品をたくさんの人に観ていただいて、その感想を聞けることね。「見てよかった」「嬉しかった」「感動した」って言ってくれるのが嬉しいんだけど、基本的に見てもらった作品って、自分たちの分身みたいなものじゃないですか。だからこそ、すごく嬉しいですよね。
『ONI』が出てもう3年経つけど、未だに「『ONI』、初めて見たよ」っていう人もいるのね。「良かったよ」って言ってくれると、嬉しいじゃないですか。
ユイお便りみたいなものも届くんですか?
ダイスちょこちょこ来るし、ファンアートを描いてくれたりとか。あと『ONI』に関しては、本当にプロの方が見てくれてるケースがすごく多くて。多分やっぱり、同業者の方にすごく評価してもらった作品だったからね。すごく広く、たくさんの人が見てくれた人気作品ってわけじゃないので、知る人ぞ知る的な感じで、誰かに勧められて見てくれた人が多いのかもしれないですけど。そういうのは、もちろん嬉しいよね。
トンコハウスのクルー達
ダイスでも未だに覚えてるのは、『ONI』を作ってる時、「幸せだ」ってロバートに言ったらしいんだよね。自分ではあんまり覚えてないんだけど、ロバートが言うには。
『ONI』は本当に大変で、忙しくて、朝から晩までやらなきゃいけないこともすごくあるし、うまくいってないこともいっぱいある中で、ロバートが心配して話をしに来てくれたんだよね。コロナ禍だから、外で散歩でもしないと一緒にいられない時代で、その散歩中に、心から「本当に今、たぶん人生で一番幸せかも」みたいなことを言ったらしい。
それはたぶん、ちょうどストーリーボードをやってた真っ最中で、すごく大変だった時期。アニメーションとかレイアウトとかがスタートし始めて、全部が同時進行で、まあ大変だったんだけど。僕はたぶん、普通の監督と比べても全ての工程が結構好きなのね。「この工程が好き」「この工程はそこまで興味ない」っていうのが、全くないの。本当に全部大好きで、全部こだわっちゃうので、毎日が楽しくて楽しくて幸せだったのを覚えてる。
ただ、アニメーションの難しいところは、全ての企画が制作に入るわけじゃないっていうこと。いろんな作品の企画を温めても、実際に通るのは、ハリウッドで言ったら本当にわずかな企画だけなので。だから、あの『ONI』の時の経験を、ああいう感覚を、常に求めてるよね。
ユイこれからまた何かが始まりそうですか?
ダイスそうですね、始められるように、SOIFULさんの力もお借りできればと思っています。
ユイ楽しみです。これからトンコハウスとSOIFULで、一緒にいろいろやれると嬉しいです。
ダイスぜひやりましょう。本当にSOIFULを応援してるし、何でもやれることがあったら、遠慮なく言ってください。
ユイワクワクがいっぱいです。夢の列車を連結させて、一緒に行きましょう。本日はありがとうございました!
ダイスこちらこそ、ありがとうございました。
前編では、15年前サンフランシスコでの運命的な出会いから、『ONI ~ 神々山のおなり』の制作裏話や、ストーリーボードの役割、そして日米の制作方法の違いについて語りました。
中編では、制約の中で生まれる創造性、監督としてのリーダーシップ論、ストーリーアーティストのあるべき姿、そして異文化の中で働くことの本質について語りました。